地域交流誌『月刊つくし』で掲載中の記事をご紹介します。
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脳卒中にならないために.1
〈クモ膜下出血〉
脳動脈瘤により起こるクモ膜下出血は、破裂するまではほとんどが無症状です。すなわち、破裂すると先程までは元気にお喋りしていた人が、急に頭痛を訴えたかと思うと、昏睡状態になり死亡してしまうこともあるのです。40才以降の女性に多い疾患ですが、頭痛持ちさんばかりとも限りません。生まれて初めての頭痛がクモ膜下出血のこともあります。当院の脳ドックでは3%の方の脳動脈瘤がみつかっており、クモ膜下出血を起こさずに治療ができています。脳動脈瘤のある患者さん全員が破裂前に脳ドックのMRA(MRI血管撮影)により発見され治療ができればクモ膜下出血は撲滅できる事になります。
〈フレンチパラドックス〉
世界で一番の長寿国が日本であることはご存知ですね。誇らしいことですが、それでは2番目の国はどこでしょうか?実は以外にも日本より遙かにコレステロールの摂取量の多いフランスなのです。フランス人は肉料理を食べる際には必ず赤ワインを飲み、普段もお茶代わりに飲用しています。赤ワインの成分中のポリフェノールは悪玉コレステロールを失活させ動脈硬化を防止する作用があります。フランス人は油っこいグルメにも関わらず、赤ワインを飲むことにより世界でも一番、動脈硬化による病気の少ない人種なのです。日本人がもっと赤ワインを飲むようになると脳卒中や心筋梗塞が減り更に平均寿命が延びるのかも知れません。
〈脳梗塞〉
突発性の半身マヒや言語障害が脳梗塞の主な症状ですが、脳の中の大切な血管が詰まる事により起こります。脳梗塞になる原因は脳内や首の血管の異常、心臓の心房細動や不整脈などの異常に分類されます。MRI検査は症状の出る前兆の脳の変化(無症候性脳梗塞)を見つけるのが得意です。MRAは脳内の血管の異常を、カラードップラーは首の血管の異常を見つけるのが得意です。それぞれ軽症のうちに異常を見つけて治療が開始出来れば、脳梗塞は防げる事になります。
〈3Dカラードップラーエコー〉
首の内頚動脈は表層にあるため、体の中でも動脈硬化の様子を観察するのに一番便利な血管です。高血圧、高脂血症、糖尿病などがある方は、この血管がコレステロールに被われてプラークを形成し、硬く細くなっていきます。カラードップラーで検査するとプラークによる血液の乱流を観察でき、脳梗塞の原因となるかどうかが一目瞭然です。壊れやすいプラークは弾けて脳内に飛んでいき脳梗塞を作ることになります。プラークはLDL値を思いきって下げてあげると弾けないように安定させる事ができます。
〈MRA(MRI血管撮影)〉
脳の内部の血管はMRAが得意です。この検査では動脈硬化の血管は細くなり流れが淀んでいるのがわかります。将来、この部分が詰まって脳梗塞になる可能性を予測することができます。詰まりかかった血管が解れば薬物で治療ができます。
脳卒中にならないために.2
〈脳内出血〉
脳の血管が破れて出血が起こると壊れた部分の脳の症状が出現します。血圧が高すぎたり、生まれつき破れやすい血管があると脳内に出血を起こすことになります。脳は他の臓器に比べて出血が起こりやすく、しかも出血すると麻痺や言語障害など致命的な後遺症が出現するのでやっかいです。高血圧などによる脳内出血は昭和の半ばまでは脳溢血と称して成人が倒れる病気の代表格で、脳卒中の大半を占めていました。最近は高血圧の患者さんは、殆ど治療をうけておられるため、脳内出血は激減してくれました。脳神経外科医もこのところ脳内出血の患者さんにお目にかかることがかなり少なくなってきています。高血圧が長年に亘り持続すると、脳内の卒中動脈が破れやすい動脈硬化の状態になります。脳内出血にならないための予防手段は主に血圧を正常化することです。
〈高血圧〉
昔は血圧を測ることが医者の主要な業務の事もありました。最近は市役所の片隅や家庭でも簡単に自分で血圧をはかることが可能です。高血圧は生まれつきのこともありますが、ストレス、塩分、LDLコレステロール等の影響による本態性高血圧が圧倒的に多いと言われています。血圧を下げる降圧剤の「一生の間、飲み続けなければならない」という迷信は次第に消えつつあります。新しい降圧剤は脳内出血や心筋梗塞などを防止する効果があり、永年服用するとお薬無しでも正常血圧に戻してくれる事もあります。降圧剤は脳卒中などにならない健康で長寿になれる薬なのです。
〈運動療法〉
ヒトは元々、古代より野原を駆け、遊び回りながら狩猟などに生きるよう生まれ落ちています。子孫を増やし家族を養いながらの日常生活そのものが運動の延長でしたが、現代人は大人も子供もパソコンやテレビの前に座り続けて不自然な生活に慣れきっています。こうした生活上の不健康から自分を防御するには日常の運動が大切です。毎日欠かさず2、30分程の汗ばむ位の運動が出来れば、LDLコレステロールを2、30程度は下げることができます。更に高血圧も運動療法を行うことで、薬なしでも正常血圧になり一石二鳥です。日常生活の不健康から自分を防御するためにも日頃の運動を趣味にすることは脳卒中にならない秘訣といえますが、長続きさせることが大切です。
〈食事療法〉
最近話題のDHAやタウリンは青魚に多く、ポリフェノールは赤ワインに多く含まれています。いずれもLDLコレステロールを失活させ脳卒中を防止する効果があります。クロレラやアルコールは摂りすぎると血液が固まりやすく、脳梗塞になることもあります。納豆は単独では脳卒中の予防効果もありますが、心房細動に使う薬、ワーファリンといっしょに摂ると、脳梗塞になりやすく大変に危険です。お肉は摂りすぎると総コレステロールが心配ですが、少なすぎると血管が破れやすくなってしまいます。牛乳は骨粗鬆症のために沢山摂りすぎると、今度は高コレステロール血症になります。青魚を適量と、少しのお肉と赤ワイン、少量の青野菜と適度の牛乳などが好ましいことになります。何事も適度に摂ることが脳卒中にならない秘訣です。またタバコはHDLコレステロールを減少させるので大変な悪役です。
認知症にならないために
〈認知症になりやすいヒト〉
人の脳には遊びの脳と仕事の脳があります。2つの脳のバランスが悪いと全体の脳の機能が落ちて認知になりやすいと思われます。例えば、若い頃から仕事一辺倒で、趣味やスポーツなどに無関心、非社交的で親しい友人のない人が60歳を過ぎて定年退職を迎えると十中八九は認知症になってしまいます。定年で仕事が無くなり、老後の目標を見つけられず、脳細胞を使わない廃用性の認知症になるのは目に見えています。楽しい趣味を持たないことは、認知症になることに等しいのです。
〈認知症になりにくいヒト〉
かくしゃくとした高齢者をみると、いつも用事を作って飛び回っておられます。肩書きは会社の相談役だったり、芸術家で絵を描いたり音楽を教えたりで、いつまでも引退されず現役のままです。いろんな事に興味を示して首を突っ込み、殆ど全部の脳を満遍なく使っておられます。若い人と同等以上の生活能力があり、余暇には旅行やカラオケ、ゴルフなど趣味も多彩です。こういう方は自分から病院を熱心に受診され、健康管理も万全で認知症は見当たりません。
〈認知症になってしまったら〉
重症の認知症は手の打ちようがありませんが、軽症の状態であればいくつか方法が残されています。肉体的障害(頭痛・腰痛・膝関節痛など)が少なからず出不精の原因になっていますので、運動療法などを中心に治してしまうことです。体の不都合が消えれば、気も晴れて頭の回転が良くなります。この後は生き甲斐を得られる趣味や運動などで多くの人と交流を深め一定の仕事を持ち、若い人たちや異性とも接触を得ることです。人は環境次第で良くも悪くもなる生き物なのです。
〈脳血管性認知〉
脳梗塞が多発して起こる病気で重症の場合はビンスワンガー病とも呼ばれます。脳梗塞が記憶の中枢である前頭葉や側頭葉にたくさん起こると最近の事を記憶出来なくなります。例えば大東亜戦争のことは完璧に覚えているのに、平成天皇のことは全く記憶に入らない等といった状態です。同時に言語障害や歩行障害が出現するのが特徴ですが、軽症のうちに脳梗塞の治療を開始できれば、かなり良くなっていきます。大脳の細胞は140億個存在しますが、脳梗塞により2、3割が壊れてしまうと認知症の症状が出現します。脳梗塞の治療は再発の予防と生き残った脳細胞の活性化および脳細胞間のネットワーク作りです。病院では薬物療法と運動療法を中心にして治します。
〈頸部内頚動脈プラークと心房細動〉
首の内頚動脈の動脈硬化によるプラークと心房細動は脳梗塞の原因として代表的な病態です。どちらも精密検査で確認できるため、患者さんが治療に熱心であれば治癒することも可能です。軽症のうちに治療しておけば、脳血管性認知も撲滅出来るかもしれません。
〈動脈硬化の促進因子〉
動脈硬化や脳梗塞の促進因子は高血圧、高脂血症、糖尿病です。どれも有名な病態ですが、意外と疎かにしている方が多く、放置したままでいると必ずや認知症が出現します。人生を台無しにしてしまい、他人に迷惑をかけることにもなります。
〈認知症のテスト〉
外来で5分程で簡単に出来る認知症テストがあります。30点満点で25点以下が認知症にあたり、認知症を早期発見できる有力なテストです。
未だ治療法が確立されていない病気は沢山ありますが、アルツハイマー病も有名で厄介な難病の一つです。どんなにインテリでも、どんなに健康に留意していても、ある日突然に物忘れが出現し除々に進行していきます。脳神経外科には物忘れを心配する方が大勢受診されますが、アルツハイマー病も結構たくさん見つかります。米国のFDAによると西暦2013年頃には認知症の治療薬が完成する予測が出ています。あと僅か15年位ですが、皆さんはそれまで惚けないでいられるでしょうか?
〈アルツハイマー病〉
この病気の名付け親は1900年初頭のドイツ人ですので、まだ90年足らずの歴史です。早い人では50歳代位から、“忘れっぽくて仕方がない”症状を自覚します。次第に場所や時間の概念が失われるため、ハンコや通帳、財布などのしまい場所を忘れ一日中探し回って、家中がてんやわんやの大騒ぎとなります。性格はあまり障害されず明るいままで、人に好かれるやさしいお年寄りですが、最近の記憶がほぼゼロとなり、連れ合いや自分のことまで解らない状態になってしまいます。大脳の記憶の神経細胞が異常に早い老化により消えていき、最期は廃人同様にまで様変わりします。脳をMRI で診ると大脳が全体的に萎縮して隙間だらけになり、顕微鏡で大脳を診ると側頭葉の海馬を中心に記憶神経の死骸が異常に沢山見つかります。今の所は治す術はありませんが、特効薬が15年後に完成する予定です。
〈加齢による認知症〉
20歳頃をピークに人の記憶力は低下していくものです。生まれたときの大脳の神経細胞は140億個ありますが、歳とともに減っていき、2~3割減少すると明瞭な認知症が出ると思われます。半分の人が認知症になるのは80歳です。100歳の人の認知テストでは、95%が認知症にあたり、残り5%の人は超正常ということになります。
めまいについて
〈頸部椎間板ヘルニア〉
天井を向いて仰け反ったり、足元の物を取ろうとして前のめりになった際に一瞬グラグラっとします。耳鳴りや肩凝り、手のシビレもありますが、寝違いやむち打ち症を経験している方が殆どです。重症の時は意識をなくして救急車に乗ることもあります。傷んだ椎間板が飛び出して脊髄を圧迫し、運動神経や自律神経の障害があり瞬間的なフラフラ感を呈しています。MRI で頚椎を診ると小さな椎間板ヘルニアがみつかります。猫背で前屈みの姿勢の悪い方に多い症状ですが、年齢とともに進行することが多いので早めに治療をしなければなりません。首の強化トレーニングで症状は少しずつ良くなっていきます。
〈椎骨脳底動脈循環不全〉
体を動かした際に強いめまいと頭痛、吐き気があり急に胸が苦しくなったりしますが、横になっていれば1時間以内で良くなります。若い頃は高血圧の為に薬を服用していたが最近、めまいやフラフラ感がして血圧が低くなってきたという状態です。脳幹部に小さな脳血栓が見つかり、MRA(血管撮影)で椎骨動脈に動脈硬化がみつかります。血圧を調節する青班核や視床下部の機能障害のため、降圧剤を中止して昇圧剤に変更すると治る人もいます。
〈メニエル病〉
天井が突然グルグルと回りだしてゲーゲー吐き続け、耳鳴り、難聴もあるのが特徴です。とんでもないひどいめまいのために、このまま死んでしまうのではないかと思う患者さんもおられます。安静と点滴で2、3日で良くなります。さすがのMRIもメニエル病には無力で聴神経、小脳などに異常を見つけることはできません。3日もたてば治るのが特徴ですが、1週間以上もめまいが続く時は他の疾患の可能性があります。心の痛手は残りますが、良性のめまいです。
〈頸部内頚動脈プラーク〉
のど仏には左右に大きな2本の頸動脈が走っています。これは脳の血管の源流ですので最も大切な、いわば脳の生命線です。この血管の内膜にはコレステロールの固まりがつきやすく、エコーで診るとプラーク(コレステロールの固まり)となっているのが確認できます。プラークの小さな破片は血液と一緒に飛んでいって脳の血管に詰まり突然、フラフラっとする脳梗塞の発作を起こします。コレステロール値を思い切って下げてあげるとプラークは小さくなって発作は起こらなくなります。糖尿病や高血圧の患者さんはプラークが出来やすいので注意が必要です。
〈心房細動〉
心臓の色々な不整脈の中でもめまいと関係の一番深いのが心房細動です。心房細動のある心臓の内側の壁には、血液がかさぶた状にくっついており、これが破片となって脳に飛んでいくことがあります。破片が小さな場合は軽いめまいが起こりますが、大きな固まりの時は強いめまいと麻痺が同時に起こり意識をなくすこともあり、重症の場合は昏睡状態になって脳死状態にもなります。心房細動は脳梗塞を起こさないよう治療の必要な不整脈です。
〈慢性脳循環不全症〉
脳の血管が動脈硬化により細くなって血液の流れが悪くなると歩行時にフラフラ感やめまいが起こります。MRIによる脳血管撮影で診ると中大脳動脈や、内頚動脈の流れの悪い場所が見つかり、中には詰まっているところも見つかります。詰まりかかっている血管があれば麻痺が出たり消えたりすることもあります。脳血流改善剤を服用したり、血圧を少し上げてあげると良くなります。いわゆる脳の酸素不足が原因と思われる症状です。
珍しい頭痛について
〈トローサハント症候群〉
MRIが撮れるようになってから正確に診断できるようになった頭痛のひとつです。患者さんは目の奥がズグズグ痛くて充血し、物が二重に見え、瞼が垂れ下がっていると訴えます。MRIでは眼窩後部に炎症性の肉芽が見え眼静脈と動眼神経を圧迫しています。ステロイドが著効しますが、セデスは効きません。
〈カウザルギー(外傷性頸部症候群)〉
むち打ち症などの怪我の後、後頭部や顔、ひどい時には肩や手まで激痛やビリビリ感、むくみが出現し日常生活に支障を来します。MRIで頚椎を診ると後縦靭帯が剥離し、浮腫状になって脊髄神経を圧迫しています。神経栄養血管の自律神経障害によるもので、心身症の薬や星状神経節ブロックで根気よく治していきます。
〈群発頭痛〉
片頭痛の激症型で何日間も何回も断続的に起こります。目汁、鼻汁おまけに目が充血し人前に出られない位の大変可哀想な頭痛です。発作時のMRI血管撮影(MRA)では頭痛側の脳の血管が乱流のため狭窄様に映ります。
〈サンダークラップ〉
突発する激しい頭痛で、誰もがクモ膜下出血だろうと考えます。検査してもクモ膜下出血は存在せず、原因の分からない良性の頭痛をこう呼んでいます。さらに精密検査をすると小脳の梗塞や椎骨動脈解離性動脈瘤が潜んでいることもあります。翌日に頭痛が治っていれば心配ありません。
〈三叉神経痛〉
顔の片側に激痛が出現し、食事や歯磨きをすることで痛みが増強される大変に迷惑な神経痛です。MRAでは脳血管が三叉神経を圧迫しているのが確認でき、神経血管減圧術をすれば治ってしまいます。
〈片頭痛(血管性頭痛)〉
脳神経外科の外来で一番多い頭痛は片頭痛です。ひとみの奥を覗くと脳の血管の一部である網膜動脈が見えます。片頭痛の人はこの血管が脈打つように大きくドクドクと拍動して隣に沿って走っている三叉神経をグイグイと押さえつけて頭痛が起こっています。発作時にMRA(脳血管撮影)をすると内頚動脈と脳底動脈からなるウイリス輪が拍動による乱流のため狭窄状に描出されます。小児の頭痛も殆どがこれにあたりますが、バッファリンの効きにくい頭痛のひとつです。
〈大後頭三叉神経痛〉
成人の後頭部痛の殆どは頚椎の変形による神経痛です。軽いうちは肩凝りや頸部痛、重症になると歩行障害や手足のシビレ感を伴ってきます。頚椎をMRIで診ると少なからず椎体の棘や椎間板のヘルニアを認め脊髄を圧迫しています。軽症のうちに治療できれば治ってしまいます。腰痛と同様に人が立って歩き出したための副産物です。
〈緊張性頭痛〉
ストレス真っ盛りの働き盛りに多い頭痛です。頭や首の検査をしても異常は見あたらず、こめかみや後頸部の締めつけたようなこわばりが特徴的です。心身症の薬が著効しますが、セデスはあまり効きません。休日は消えていることもあり、職場を変えることで治ることもあります。
〈慢性副鼻腔炎〉
目の奥やこめかみに痛みが限局して起こります。蓄膿症があって微熱がある時の頭痛がこれにあたります。抗生物質の効く唯一の頭痛です。
交通事故について
〈頭部外傷・脳震盪・脳挫傷〉
歩行中や自転車に乗っていて車に轢かれるとバンパーで下半身が弾き飛ばされ宙に舞ってフロントガラスで頭部を強打します。たいていの人が目の前にフロントガラスがきて、おでこをぶつけて“これまでか”と思ったとこまで覚えており、その後の記憶を喪失します。救急車に乗るところで意識が早く戻ると軽症の脳震盪です。重症の場合は後頭部などを強打して脳に挫傷が起こっており当分意識が戻りません。実際には漢字の字面ように下敷きになって楽しく車に轢かれてしまうような事はありません。
〈慢性硬膜下血腫〉
軽微な交通事故で頭痛が10日程度、長引いた方に起こる脳表の外側の出血です。頭部外傷の中でも手術をすれば最も劇的に善くなる病気です。事故の後、1年以上も後で診断されることがあります。脳の表面に少しずつ血液が溜まることで症状が出現しますが、手術で頭痛や麻痺は治ります。
〈急性硬膜下血腫〉
中等度の外傷で起こり、側頭部のタンコブの真下に骨折があります。事故直後は頭痛だけで頭を抱えながら自宅に帰れますが、1-2時間後に昏睡状態で救急車で運ばれてくる事もあります。骨折部からの出血が初期の小さい間は意識が清明ですが、次第に大きくなって急激に昏睡になるのが特徴です。緊急手術が間に合えば完全に快復出来る外傷ですが、診断が遅れて亡くなることもあります。
*交通事故の被害者は頭痛や腰痛のため、毎日のように病院に通いながら、なかなか元の体に戻らないのでイライラされています。また、交通事故の後遺症で悩んでいる方の大半はむち打ち症の患者さんです。重症のむち打ち症の患者さんは、治りにくくて医者も患者もお互いにつらい思いをします。どんなに安全運転に徹していても後からぶつかって来られたら避けようがありません。不思議なのは、むち打ち症に逢う患者さんの多くは2度、3度と多数回の交通事故の被害者になっていることです。恐らく信号待ちの止まり方が特殊なのか、追突されやすい魔力(魅力?)もあるのでしょう。
〈外傷性頚部症候群(むち打ち症)〉
首を急に捻られると筋肉や椎間板、末梢神経などの柔らかい組織の引きちぎられた所に出血が起こり頸部痛が出現します。車にヘッドレストが標準装備された1970年頃から重症のむち打ち症は激減しましたが、斜めや横から追突されたら効き目がありません。頸部痛や頭痛以外にも、めまいや耳鳴り、両手のシビレ感や時として狭心症まがいの胸痛、倒れ発作などの症状もあります。症状は事故の直後から明らかなものが殆どですが、ときに1年以上も遅れて出現し胸痛などのため救急車で運ばれる事もあります。
〈外傷性胸郭出口症候群〉
なで肩の肥満女性に多い症状で事故の後から手が挙げられず、胸の前側が痛み、指が冷たくて急に汗があふれ出るといった症状です。前屈み姿勢の悪循環のため治りにくくなりますが、上半身のストレッチ運動や筋力増強運動が有効です。星状神経節ブロックが著効することもあります。
*交通事故には被害者と加害者が存在します。病院に通院されるのは被害者で、加害者は滅多に受診されません。加害者は事故直前に身構えることが出来ますが、不意の出来事で受け身も出来ずに症状が出やすいのは被害者の方です。被害者は床に就いていても頭痛や腰痛で枕が合わず寝相が悪くなり、イライラして不眠症になったりします。心療内科の治療が必要になる方もたくさん居られます。
〈枕の不一致〉
交通事故の患者さんは頭痛のために、枕が合わないことを相談をされます。慢性のむち打ち症の患者さんは頚椎の変形を伴っており、色々な枕のコレクションをお持ちですが、滅多に理想の枕は見つかりません。変形した頚椎が脊髄を圧迫して頭痛になっていますが、後頭部の緊張や、うっ血のため、慢性になるとこわばりが痛みに変わります。むち打ち症の方は、枕よりも自分の首に責任があることが多く、枕に頼るよりも自分の首の変形や寝相を治すことが先決です。首の変形はストレッチ運動を中心とした首周りの筋肉トレーニングで改善できます。首のトレーニングが完成すれば、どんな枕でも合うようになり、寝相も改善し、理想の枕を探す必要もなくなります。
〈自動車賠償責任保険(自賠責)〉
強制加入の保険である自賠責は加害者にとって手厚く有利に出来ていますが、被害者の治療には限界や期限もあります。被害者は治療に難渋する以外にも、職に戻れずに家庭が崩壊したり、次第に自分の身を守ってくれるヒトがいない孤独の不安に駆られます。この点、加害者は一般に障害が軽微で病院を受診する必要もなく、事故の処理も自賠責の代理店が肩代わりして面倒をみてくれるため何の心配も要りません。現在、これに替わる被害者を守るものとしては任意の傷害保険、或いは弁護士などですが、一般には利用しにくいため、被害者を守ってくれる制度の新設が望まれるところです。
女性と脳神経外科
〈変形性頚椎症(脊柱管狭窄症)〉
しつこい頭痛、肩凝りの女性の頚椎をレントゲン検査すると骨が貧弱で年とともに変形が強くなっているのが解ります。MRIで診ると脊髄と骨がくっ付きあって押しくら饅頭しています。脊髄の中の血管も押さえ付けられながら、やっとこさ流れていますが、脊髄は血流障害のためムクんでしまってビリビリとシビレが出現しています。心身症の薬と星状神経節ブロックで何とか軽くなりますが、首の筋肉の強化運動をすれば更に良くなっていきます。腰痛と同様に、首の弱い人類が立って歩き出し、日常の姿勢が悪いことによる疾患です。
〈クモ膜下出血〉
40才以降の女性に多い疾患ですが、頭痛持ちさんばかりとも限りません。生まれて初めての頭痛がクモ膜下出血のこともあります。当院の脳ドックでは3%に脳動脈瘤が見つかっており、クモ膜下出血は自分で予防する時代になってきました。
〈更年期障害〉
頭の火照り、フラフラ感、頭痛などのある中年女性は、脳がおかしくなったと思って受診されます。脳の検査をしてもあまり異常は見られませんが、女性ホルモンは極端に低値になっており骨粗鬆症や高コレステロール血症も見つかります。更年期障害の人は女性ホルモンの貼り薬で見違えるように良くなります。
〈不妊症とプロラクチノーマ〉
女性の不妊症のうち妊娠もしていないのにオッパイが張ってミルクが出ている人がいます。ダイナミックMRIで脳下垂体をみると米粒大のプロラクチン産生腫瘍が見つかります。ブロモクリプチンを服用して腫瘍を小さくすれば妊娠が可能に成ります。
脳神経外科の外来は女性(ホルモン?)との日々これ戦いです。女性を征すれば脳神経外科は意外と簡単なのかも知れません。
バレリュー症候群
う状態をバレーリュー症候群と呼んでいます。悪性のものではありませんが、頚部に
ある自律神経節(星状神経節)の異常興奮などが原因でパニック障害を来すこともあ
ります。病気への理解と頚部リハビリテーションを積極的に行い発作時の対処を覚え
れば、症状は改善できると思われます。
頚部リハビリテーションは頚部の過屈曲、過伸展時のズレを補強する体操です。いわ
ゆる前屈み姿勢で頚部が弱くなってフラフラが生じており頚部の強化運動をして予防
するわけです。一般のリハビリテーション施設では行われていませんのでお近くでし
たら当院の木曜夕診を受診してみてください。
脳梗塞にならない方法
脳梗塞
突然に起こる半身麻痺や言語障害が脳梗塞の主な症状ですが、脳の中の大切な血管が詰まる事により起こります。脳梗塞になる原因は脳内や首の血管の異常、心臓の心房細動などの不整脈などに分類されます。MRI検査は症状の出る前兆の脳の変化(無症候性脳梗塞、かくれ脳梗塞)を見つけるのが得意です。MRAは脳内の血管の異常を、カラードップラーエコーは首の血管の異常を見つけるのが得意です。それぞれ軽症のうちに異常を見つけて治療が開始出来れば、脳梗塞は防げる事になります。
MRA(MRI血管撮影)
脳の内部の血管の検査はMRAが得意です。この検査では動脈硬化の血管は細くなって、流れが淀んでいるのが分かります。将来、この部分が詰まって脳梗塞になる可能性を予測することが出来ます。詰まりかかった血管が解れば薬物などで治療ができます。
カラードップラーエコー
首の内頚動脈は表層にあるため体の中でも動脈硬化の様子を観察するのに一番便利な血管です。高血圧、高脂血症、糖尿病などがある方は、この血管が悪玉コレステロールに被われてプラークを形成し硬く細くなっていきます。カラードップラーエコーで検査するとプラークによる血液の乱流を観察でき脳梗塞の原因となるかどうかが一目瞭然です。壊れやすいプラークは弾けて脳内に飛んでいき脳梗塞を作ることになります。プラークはLDLコレステロールを思い切って下げてあげると弾けないように安定化させる事が出来ます。
正常な頸動脈
50%狭窄して脳梗塞になりやすい
頸動脈のプラーク
クモ膜下出血の予防
日本では年々、高齢化のためにクモ膜下出血の患者さんが増加傾向にあります。脳神経外科はこれまではクモ膜下出血の患者さんを治療するために一生懸命でしかも精一杯でした。ところが最近はMRI(磁気共鳴断層装置)を始め医療機器などの進歩により予防医学が発達し、症状の出る前の人を未然に治療する事が可能になってきたのです。クモ膜下出血にならないための自己防衛手段がいくつか出来上がってきています。
クモ膜下出血
脳動脈瘤により起こるクモ膜下出血は、破裂するまでは無症状です。すなわち破裂すると先程までは元気にお喋りしていた人が、急に頭痛を訴え、昏睡状態になり死亡してしまうこともあります。40才前後の女性に多い疾患ですが、頭痛持ちさんばかりとも限りません。生まれて初めての頭痛がクモ膜下出血のこともあります。当院の脳ドックでは受診された方の3%に脳動脈瘤がみつかっており、クモ膜下出血を起こさずに治療することが出来ています。脳動脈瘤のある患者さんが破裂前に脳ドックのMRA(MRI血管撮影)により発見され治療ができればクモ膜下出血は予防できます。脳ドックがもっと普及すれば将来は撲滅できる可能性のある疾患とも考えられるようになってきたのです。
正常
脳動脈瘤がありクモ膜下出血に
なりやすい状態
脳内出血にならない為に
脳内出血
脳の血管が破れて出血が起こると壊れた部分の脳の症状が出現します。血圧が高すぎたり、生まれつき破れやすい血管があると脳内に出血を起こすことになります。脳は他の臓器に比べて出血が起こりやすく、しかも出血すると麻痺や言語障害など致命的な後遺症が出現するのでやっかいです。高血圧などによる脳内出血は昭和の半ばまでは脳溢血と称して成人が倒れる病気の代表格で、脳卒中の大半を占めていました。最近は高血圧の患者さんは治療を受けやすく成っており、脳内出血は激減しています。脳神経外科医もこのところ脳内出血の患者さんにお目にかかることがかなり少なくなってきています。高血圧が長年に亘り持続すると、脳内の卒中動脈が破れやすい動脈硬化の状態になります。脳内出血にならないための予防手段は主に血圧を正常化することです。
高血圧
50年くらい前は血圧を測ることが医者の主要な仕事でした。最近は市役所の片隅や家庭でも自分で血圧をはかることが可能です。高血圧は生まれつきのこともありますが、ストレス、塩分、LDLコレステロール、肥満等の影響による高血圧が圧倒的に多いと言われています。血圧を下げる降圧剤の「一生の間、飲み続けなければならない」という迷信は次第に消えつつあります。新しい降圧剤は脳内出血や心筋梗塞などの病気を防止する効果があり、永年服用するとお薬無しでも正常血圧に戻してくれる事もあります。降圧剤は脳卒中などにならない健康のための薬で、お陰で日本人は長生きになりました。 病気にならない血圧は上が130未満、下が85未満です。
図は左側頭葉の脳内出血。患者さんは失語症と軽度の右片麻痺を認めます。長年、高血圧を放置されていたために起こりましたが今は熱心にお薬を飲まれてお元気になりました。